BIS論壇 『「一帯一路」と環境問題』 2017年7月9日 中川十郎

『「一帯一路」と環境問題』 2017年7月9日 中川十郎

2017年3月インド洋に面する21か国参加の「環インド洋連合」(IORA)の初会合をジャカルタで開催。世界人口の約30%を占める連合が動き出す。5月横浜のアジア開銀年次総会には67か国から4000人が参加。アジア・ユーラシアのインフラ投資が加速する。
5月北京の「一帯一路」首脳会議には19か国首脳、70国際機関代表、130か国代表1500人が参加。6月アスタナの上海協力機構(SCO)首脳会議ではインドとパキスタンを正式メンバーに承認。ユーラシアでの中国、ロシア、インド、パキスタンなど有力国の連携が強化される。6月韓国・済州島のアジアインフラ投資銀行(AIIB)年次総会で加盟国は80か国に増加。米国格付け会社ムーデイズがAIIBに世銀、アジア開銀、欧州復興開銀同様Aaaの最高格付けを付与。7月ハンブルグのG20首脳会議では米国以外の19カ国が結束して地球温暖化対策国際的枠組み「パリ協定」への取り組を宣言。「一帯一路」は陸と海からアジアと中央アジア、中東、アフリカ、欧州を結ぶ21世紀のシルクロード構想だ。沿線国は64か国。戦後の欧州復興計画・マーシャルプランをしのぐ。運輸、エネルギー・インフラ、文化教育、環境保全を含む壮大な構想だ。「一帯一路」は「利益、運命、責任」共同体形成を目指し「低炭素・インフラのグリーン化、低炭素化建設と運営管理を強化。建設では気候変動の影響を十分に考慮する」と宣言。低炭素エネルギー共同体構築を目指す。世界のインフラ開発の中心となるユーラシアで中国を中心にインド、ロシア、パキスタンなど域内諸国が環境に留意した経済開発に努力することを期待したい。

BIS論壇 『「一帯一路」再考』2017年7月5日 中川十郎

『「一帯一路」再考』2017年7月5日 中川十郎

7月3日、国立研究開発法人・科学技術振興機構主催で「日中科学技術交流シンポジウム」が開催され参加した。同会議には松野博一・文部科学大臣、中國から万 鋼・中国科学技術部長(大臣)ほか日中の科学技術専門家が参加した有意義なシンポジウムであった。
同会議には岸 輝夫・外務大臣科学技術顧問、安西裕一郎・日本学術振興会理事長、里見 進・東北大学総長、藤嶋 昭・東京理科大学学長、松本洋一郎・理化学研究所理事など。中国からは許 諒 科学技術部イノベーション局長、続 超前・ハイテク副局長など日中の科学技術の専門家が多数参加した。
日中の科学技術共同研究は1978年の日中平和友好条約締結を機に結成され、2018年に結成40周年を迎える。この間、研究者の交流、共同研究支援、交流基盤の形成、支援など長年日中間での交流が地味に続けられている。平成27年度の中国人研究者の受け入れは502人に達し、3914人中8分の1が中国からである。日本人研究者の中国派遣も5400人中376人で両方とも中国が最大のシェアーを占めている。
中国からの科学技術研究留学生の中国同窓会(会長:孔 徳新・天津医科大学教授)も設立され、1300人が会員となり、日中の科学技術交流促進に努めている。山東、北京、重慶、上海になど7地区に33支部があり活発な活動を展開していることに感銘を受けた。
中国は科学技術においても長期的な視野のもとで、13次5か年計画を踏まえ、2030年を目標に科学技術分野の壮大な発展戦略を推進中である。中国全土に4298の科学技術創造センター、3000のイノベーションセンター、400の科学技術革新推進センターを設立。人工知能、高速コンピューターを含めた世界最大の高度科学技術の中心になろうとの野心的な計画を打ち出している。2017年のThe Global Innovation Indexでは日本の14位に対し、中國は22位に躍進し、日本に急速に肉薄しつつある。
驚いたことに万 鋼・科学技術部長(大臣)、続 超前・ハイテク副局長の講演では「一帯一路」参加国において国際的な科学技術の深化、協力を国家的に全面的に推進し、「一帯一路」先端科学技術イノベーション共同体構築に全力を注ぐとの発言がたびたびあったことである。かかる観点から中国の「一帯一路」にかける国家戦略は単なる経済、国際物流網構築、インフラ建設のみでなく、ハイテク科学技術、文化、教育、環境、福祉など幅広い分野に及んでおり、中國がユーラシア、中東、アフリカなどを巻き込み、長期的視野に立った、地球規模の壮大な戦略で対応していることに感銘を受けた。
安倍政権は「一帯一路」は中国の過剰設備、過剰産品の輸出志向だなどと一面的な見方で批判しているが、中国の「一帯一路」戦略は戦後のヨーロッパの経済復興を目指したマーシャル・プラン、世界経済再構築を志向したブレトンウッズ体制下の世銀、IMF, GATTなどを超える壮大な21世紀のユーラシアを中心とする中国のグローバル戦略であることを日本としても正しく評価し、可及的速やかに「一帯一路」、「AIIB」に参加することこそ日本の喫緊の課題であることを痛感させられた日中科学技術シンポジウムであった。

BIS論壇 『一帯一路、AIIB, SCO、EEU(ユーラシア経済連合)』 2017年6月30日 中川十郎

『一帯一路、AIIB, SCO、EEU(ユーラシア経済連合)』 2017年6月30日  中川十郎

5月14~15日の「一帯一路」北京での首脳会議のあと、6月8~9日カザフスタンの首都アスタナで上海協力機構(SCO)首脳会議が開催された。この会議の目玉は2001年のSCOの創設以来、初めて西アジアの雄でポストチャイナとして発展著しいインドに加え、パキスタンをフルメンバーとして承認したことだ。これで有力BRICSメンバーで21世紀に最も発展するとみられるユーラシアに位置する中国、ロシア、インドがSCOのメンバーとなる。ユーラシアでの「一帯一路」戦略にも大きな好影響を与えるとみられる。
SCOが公表した成果文書によると、中国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」を首脳らは歓迎。5月の一帯一路会議の結果を称賛。これまでの成果を支持する」と高く評価している。ユーラシアでの経済共同体構築に長年努力している中央アジアの有力国・カザフスタンのナザルバエフ大統領は「(インド、パキスタンの加盟は)組織の発展を促し国際的な権威は高まる」と歓迎したという。今後のユーラシアでの中国、ロシア、インド、パキスタンなどの結束と協力がさらに深まるだろう。
中央アジアの有力資源国カザフスタンのナザルバエフ大統領は早くからユーラシア経済共同体、経済連合につき、1994年のモスコー国立大学での講演でユーラシア統合の必要性を力説している。(Nazarbayev、“Leadership Perspective”First Victory House, London, 2015 p263)
6月28日、東京で行われたカザフスタン投資セミナーでもカザフスタン関係者は筆者の質問に対して「一帯一路」計画で中央アジアの中心にあるカザフスタンは物流を中心に主導的役割を果たしつつある。すでに中国のヨーロッパ向け鉄道、道路の運輸で重要な役割を果たしている。ナザルバエフ大統領宿願のユーラシア経済連合(Eurasia Economic Union)は2015年に結成され、ロシア、カザフスタン、ベラルーシ、アルメニア、キルギスの5カ国での経済連携が動き出している。6月の上海協力機構(SCO)首脳会議、9月に中国で開催されるBRICS首脳会議で「一帯一路」計画の具体化がさらに進展するだろう。
一帯一路は経済、運輸のみならず文化、教育、社会開発、環境問題など幅広い野心的なユーラシアの広域経済圏構想故、日本も出遅れないようにぜひこの21世紀の壮大なユーラシア開発計画に参画して欲しいとの要望がカザフスタン側から出された。

安倍政権が、透明性に欠けるとか、Governance(企業統治)や与信上問題があると理屈をつけて参加を逡巡しているAIIB(アジアインフラ投資銀行)は、世界的な米格付け会社ムーデイーズ社から6月29日、自己資本や流動性が厚いことや手堅い運営などが評価され、発足1年半で、世界銀行、アジア開発銀行(ADB)、欧州復興開発銀行(EBRD)など国際開発金融機関と同じAaaと最高の格付けを取得した。安倍政権がAIIBを信用できないと批判している隙に、米国に参加され、後悔し悔いを千載に残す日が近付いているように思える。

BIS論壇『ドクター中松の卒寿を寿ぐ』2017年6月26日 中川十郎

『ドクター中松の卒寿を寿ぐ』2017年6月26日 中川十郎

本日はBIS名誉顧問ドクター中松の満89歳、数えで90歳卒寿のめでたい誕生日である。BIS会員200名を代表して心からお祝いを申し述べたい。4年前に導管がんで5名の医者から余命2年と宣言された。その後、得意の発明力を発揮、ガンに効果的と言われる食品を発明。自分の体を実験台に果敢にガンに挑戦。「医食同源」を実証され、4年後の今も健康で、BIS情報研究会にも毎回ご参加頂き、貴重なコメントを賜っており感謝に耐えない。
今から29年前の1988年7月、駐在先の米国ニチメン・ニューヨーク本社の開発担当として米国得意先とランチをともにし、6番街(Avenue of America)47丁目の会社に帰途途中、48丁目の交差点で、道に迷っておられる日本婦人を見かけた。どちらにお越しですかと声をかけたところ、ロックフェラーセンターにある日本テレビのNY支店を探しているとのことだった。時間があったので、日本テレビの前までご案内した。別れ際に、 「私はドクター中松の秘書の篠塚と申します。今回、世界発明会議参加のためニューヨークを訪問しています。もし差支えなければ名刺を頂戴できますか」とのことで名刺を渡して別れた。
その日の夕方、その篠原さんから会社に電話があった。「ドクター中松に中川さんにご親切に道案内をされたと報告したところ、お礼に夕食を共にしたい。マンハッタンの会員倶楽部に来ていただきたい」とのことでご一緒した。これがドクター中松との人生における御縁の始まりである。人生とはなんと不思議なものであろう。翌年、ニチメン本社開発企画担当部長がニューヨークを訪問し、世界発明会議に出展した。
当時私は商社の開発担当だったので、ニューヨークでの人脈開拓、新技術情報収集に昼夜をわかたずマンハッタンを走り回っていた。ある時、元国連弘報担当で活躍していたGloria Kins女史を紹介された。Gloriaさんのご自宅はマンハッタンにあり、建物は英国式で建築史でも有名だった。毎年11月のニチメン創立記念祭には特に頼んで広大な自宅に得意先を招いてパーテイを行った。マンションの応接室には古今の芸術品があふれており、100人も入れるほどの広大な応接室があった。ある時、ドクター中松をこの館に案内し、歓迎パーテイを開催した。Gloriaさんの人脈で国連関係者、大使、外交官、ニューヨーク財界人が多数参加した。その中には今はなき「ニューヨーク紅花」のロッキー青木氏の顔もあった。この時からの御縁もあり、GloriaさんにはBIS創設以来、ニューヨーク代表BIS国際理事を御願いしている。
ドクター中松は近著『ドクター中松の最終講義~打ち破る力』(世界文化社)での「一日24時間を3倍有効に使えば、3倍有効に生きられる」「お金より尊いインテリジェンスを財産にしよう」という提言は私のこれまでの人生訓とも同じで共感と感銘を受けた。

ドクター中松が帝国海軍兵学校時代以来の気力と胆力、勇気と発明力で、難病を克服され、さらに世界の為、国のために益々活躍されんことを卒寿のめでたい誕生日に際し、心より、皆様と共に、祈念する次第です。

BIS論壇 『AIIB年次総会と一帯一路』2017年6月17日 中川十郎

『AIIB年次総会と一帯一路』2017年6月17日 中川十郎

中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)年次総会が6月16~17日、韓国の済州島で開催された。AIIBは加盟国拡大に力を注ぎ、16日にアルゼンチン、トンガ、マダガスカル3カ国の参加を認め、加盟国・地域は80となった。今年創設50年目を迎えるアジア開発銀行(ADB)の67カ国・地域をさらに引き離した。年末までには参加国は85から90か国・地域に達すると予測されている。
今回の会議では先にトランプ政権が脱退を表明した温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」を推進するために地球温暖化対策に結びつく投融資にAIIB参加の80か国・地域がEU、中國を中心に注力していく方針を打ち出したことだ。AIIBは総会にあわせて、3件、3億2400万ドルの新規融資案件を承認した。1件は印度のインフラ基金への出資。2件は世界銀行などとの協調融資だ。これまでの融資は16件、約25億ドル。このうち12件、19億ドルが世界銀行、アジア開発銀行、欧州復興開発銀行などとの協調融資で、慎重な運営を行っている。AIIBはアジアから欧州に及ぶ経済圏作りを目指す「シルクロード経済圏構想(一帯一路)」を資金面で支える投融資銀行としての役割を果たすものとみられる。「AIIB」と「一帯一路」構想は車の両輪の働きをするものだ。
AIIBはこのように本格的な国際機関の体裁を整えた。次回は印度で2018年に開催される。
国際評論家・春名幹男氏によれば、米外交問題評議会研究員等が5月12日のフォーリン・ポリシー電子版で「一帯一路」について「アジアにおける米国のリーダーシップの危機」と警告し、このままだと「米国はアジアの主導権を失う」と危機感を示しているという。
安倍政権が一帯一路に対抗すべくインドと組んでアフリカを中心にインフラプロジェクトでの連携作戦をしている現状に触れて、インドのSunil Chacko教授は5月20日のSunday Gardian Liveでこの構想は効果的でないと批判的な論調を掲げている。
安倍政権の麻生財務相は「AIIBに融資条件を審査する常設の理事会がないことから、融資能力、審査能力があるのか」と加盟に否定的な考えを示しているという。(朝日6月17日)。一方、加計疑惑の「怪文書」発言で批判が高まっている菅官房長官は「AIIBへの日本の参加時期について考えていない。しっかりと注視しながら(判断する)ということだ。重視する条件については、公正なガバナンスの確立や加盟国の債務の持続可能性の確保などを挙げた」という(日経6月17日)。
G7では米国とそれに追随する日本の2カ国のみが、上記のような理由をつけて参加を逡巡している。このような自国中心の対応では日本は「AIIBと一帯一路」のバスに乗り遅れ、悔いを千載に残すことになるだろう。
東アジア共同体研究所理事長の鳩山由紀夫元首相はAIIBの国際諮問委員会顧問として活躍されており、今回の済州島でのAIIB年次総会に参加された。6月24日の国際アジア共同体学会(於立教大学)春季大会で「ユーラシア新世紀への提言~AIIB総会から帰って」と題して講演される。BIS会員各位の参加を希望したい。