膨州市・視察訪問報告書 

四川省膨州市

師 敏 副書記殿                    2007年3月25日

陳 世全 弁公室主任殿

写 関係各位殿

膨州市・視察訪問報告書

                                                 膨州市視察訪問団

                            団長 中川 十郎

                         WTO PSI 貿易紛争処理委員

                          JETRO 貿易アドバイザー

                          日本大学大学院非常勤講師

                        東京経済大学経営学部大学院前教授

2007年3月19日~25日の膨州市視察訪問結果、下記報告いたします。このうち一件でも日中協力プロジェクト(案件)として実現できることを期待します。

  1. 膨州市観光、貿易開発提案;
  2. 膨州市は竜門山、丹景山、龍興寺塔、白鹿上書院、陽平道観などの風光明媚な観光地に恵まれている。とくに今回訪問した銀廠溝は風景が素晴らしく、今後国際観光、保養地として開発することが望ましいと考える。ホームステイ(民宿)型の宿舎は汚水処理などユニットタイプで処理し、電力は太陽光、風力発電, ミ二水力発電なども併用し、景観や環境に留意したものにすべきであろう。

食事は近来『医食同源』で健康志向が世界的に高まっているところより、『医食』

で有名な四川料理のさらなる開発が望まれる。あわせ漢方薬の活用、開発、宣伝、販売にも努力すること。

対策としては本年3月に退職する日本の戦後のベビーブーマー(団塊の世代―55

~60歳)600万人の夫妻にターゲットを絞り、四川省膨州市への誘致方策の考究。

『蜀以来の3000年の歴史にあふれる食と健康と観光の宝庫、四川, 成都、膨州で医食同源の健康エコツアーを体験しよう』『健康四川料理教室ツアー』などを目玉に北京~成都~膨州~昆明などへの回遊ツアーを研究するのも一法と思われる。

  1. 『宝山温泉』の開発、活用とマッサージ、針灸、太極拳など健康四川食を結合、融合した健康ツアーの宣伝を行なうこと。
  2. これと合わせ、日本人が好きなハーフ・ゴルフ場を組み合わせることも一法。
  3. 清水『温泉水』を活用した健康水の開発、宣伝、販売。
  4. 冷水魚の宣伝。(とくにさけ、ます、さめなど)さらにしそ、わさび、にんにく、苦瓜、沢庵、野菜漬け、きのこ、きくらげ、蜂蜜の製造、販売、輸出。
  5. パンダ、牡丹, 蘭、菜の花、梅、桜などをモチーフにした製品、土産品の開発。
  6. 観光地案内のための環境にやさしい電気自動車(ゴルフカート)の活用。
  7. 菜の花を加工したバイオデイーゼルオイルの製造設備の建設。(日本の技術活用)。
  8. 養豚, 養鶏などへの新乳酸菌および創成水の活用。(日本の技術活用)。
  9. 観光振興に関しては、とくに従業員教育について、日本の旅館、ホテルと提携し、研修を強化することが望ましい。とくに日本語、英語、接客サービスの実地研修と膨州市宣伝を併せ、日本の大学、日本大学、立教大学、東洋大学などと提携し、観光学研修留学生の教育に力を注ぐこと。

研修ホテル、旅館は九州の湯布院、霧島、指宿、垂水、関東では熱海、箱根、伊豆、伊東、湯が原など。

  1. 観光者を通じ、膨州市への産業誘致、投資の勧誘に努力すること。

12)環境にやさしい観光産業の確立に努力すること。

以上の具体策として、日本企業、地域との以下の提携を提言する。

  1. 観光業振興のため、既存の膨州市、宝山温泉の環境にやさしい開発を促進する。

そのためには経験豊富な日本の九州大分県の「湯布院」もしくは鹿児島県の「霧島」、

「垂水」「指宿」温泉などと提携する。これらの都市、町とは北海道石狩市、大阪富田市などとのような姉妹都市契約を結び、協力を強化することを勧めたい。

  1. 日本有数のバラ園を有する鹿児島県鹿屋市、もしくは岐阜県岐阜市などと提携し、膨州市の牡丹、蘭の花の販売協力を行なう。
  2. 鹿児島県垂水市、鹿屋市と提携し、温泉水、酢などの販売の研究を行なう。
  3. 日本のメーカーと提携し、温泉水、創成水、乳酸菌の製造販売を行なう。とくに養豚、養鶏、生活飲用水分野。
  4. 菜の花からのバイオデイゼルオイルの抽出プロジェクトを推進し、環境にやさしいデイーゼルオイルの製造協力を行なう。
  5. 「一村、一品」「観光土産品」の開発を日本貿易振興機構(JETRO)の協力を得て行なう。
  6. 西華大学と日本の大学と提携し、留学生の相互交換、貿易、観光振興共同研究を行なう。

(日本大学、桜美林大学、東京経済大学、愛知学院大学など)

  1. JETROの協力を得て、膨州市輸出品の開発、日本からの企業誘致に努力する。
  2. 成都養豚会社と養豚技術、商品開発の相互研究、交流を強化する。
  3. 医薬会社と漢方薬の輸出開拓、日本の医薬会社、医科大学との漢方薬共同開発研究促進。
  1. 各団員報告;

1)松延洋平団員の有機野菜、農産品栽培については今後、日本、欧米、アジアの規制、食の安全情報、とくに農産物の貿易情報の提供が望まれる。

2)中村義幸団員の環境にやさしい放牧養豚についてはとくに自家製飼料の応用、コンピュター制御飼育システムの膨州市への適用研究が望まれる。(詳細については両団員の報告書を参照されたい)                       以上

 

内蒙古砂漠緑化ミッション参加報告書

 団長 中川 十郎

  1.  日中百人委員会(会長・福島啓史郎参議院議員・自民党外交部会長、理事長・柴

田静峯氏)主催の内蒙古砂漠緑化ミッションに同委員会副会長をしていることから、同委員会より団長を委嘱され参加する事となった。

中国と私との関係は1993年9月に中国科学技術情報研究所の招待で、上海、北京で競争情報の講演をして以来14年間で、その後 産,学、官との関係が深まっている。

今回は3月19日から25日にかけ、私が顧問をしている四川省膨州市の貿易・観光

有機農業・養豚開発使節団団長として参加の帰途北京で内蒙古使節団に合流した。

旅が四川省、内蒙古と2週間の山野、砂漠など長期視察になったため、後半は持病の腰痛が悪化し、団員各位にお迷惑をかけることになったことを心からお詫びしたい。

しかしながら、内陸農村部や砂漠訪問にもかかわらず、一人の落伍者も無く、全員無事帰国できたことは幸いであった。

砂漠緑化プロジェクトにつき、中国側と協力基本合意調印にこぎつけられたが、これはひとえに柴田理事長、田野島Verde社長、胡徳平統一戦線部副部長、趙・東達蒙古王集団社長はじめ関係各位のご尽力の賜物で、深甚なる謝意を表したい。

  1.  私はたびたび中国を訪問しているが、これまでは上海、北京、ハルピン、長春、天津、広州などを含む都市部がほとんどであった。今回、はじめて内陸部の四川省膨州市や内蒙古の砂漠、農村地帯を訪問でき、中国の内陸部経済開発の現状を認識できたことは有益であった。これらの内陸部は中国政府が農業、経済開発に力を入れているところより、特に内蒙古は開発が盛んで、年15~20%の経済成長を遂げており、いたるところで工業、農業開発、工場建設、ビル建築、道路建設が見られた。

今回の訪問では中国光臨事業団副会長の胡徳平・統一戦線部副部長には全行程随行いただき、その熱意に強く打たれた。ここに心から感謝申し上げたい。

また圧巻は北京最後の夜、歓送迎会を人民大会堂で開催いただいたことで、これは

我々が終生忘れえぬ思い出となった。胡徳平副部長、国家林業局・買冶邦局長、統一戦線部・戚建美副局長、柴田理事長他の関係者のご配慮に団員を代表し深謝したい。

  1.  団員の山口喜久子さんはじめ山田多佳子さん、小佐野貞子さんが和服姿で二度にわたり日本文化の精髄、茶道を紹介されたことは日中文化交流の上でも有益で、そのご努力に対して、謝意を表したい。

43人の個性豊かな団員各位が道中、事故も無く全員無事帰国できたことは副団長および団員各位のご協力の賜物で、あわせお礼を申し上げたい。

ただ一部団員のなかに集団で決めたことを履行されない方がいたり、会食中に商談に熱心なあまり、中国側参加者が食事を取れない場面が多々あり、これは国際マナー上も今後注意すべきであろう。従い、食事の前か後に20~30分の時間を取り、この時間帯で自社の宣伝や商談をするような配慮が必要と思われる。

  1. 砂漠緑化の内容についてはご専門の武蔵工業大の吉崎真司教授はじめご専門の方に一任するとして、元商社マンとしての私の今後の戦略提言は下記の通りである。
  1. 時間と資質、財務能力が限定されているところより、まず短期、中期、重点プロジェクトを選定すること。すなはち選択と集中が肝心である。

その一つとして、趙社長が力を注いでおられる扶貧地区の砂漠緑化プロジェクト支援に全力を注ぐ。有機野菜栽培、アンゴラウサギの飼育拡大、毛皮の輸出促進、環境にやさしいなめし技術の日本からの移転。風力、太陽光発電技術の提供などによる、食料、エネルギーの自給に協力することも肝要であろう。アンゴラウサギについては毛、肉、皮革産業の振興を支援する。

特になめし皮の排水処理については日本の先端技術の供与が必要で、これらについては日本のODA資金活用を考えるべきだろう。私が長年、委員長をしている日本皮革産業連合会審議委員会(参加企業6000社)と協力し、皮革製品、もしくは半製品のアウトソーシング、オフショアソーシングを検討することも提案したい。

日本の先進的な養豚技術の紹介も検討の価値があると思われる。さらに漢方薬草の活用については日本の製薬会社と協力することを提案したい。

2)今回訪問した、石炭を原料とする年産100万トンのPVC(塩化ビニール)工場は、電力源として石炭火力発電所の建設も併行して建設中であるが、これらの工場と発電所の脱硫技術を日本から導入し、環境保全を図ることが肝要と思われる。

また石炭液化計画もあり、この分野でも日本の技術協力を検討すべきと思う。

3)扶貧村訪問時,黄砂の影響と思われるが、目の悪い子供が何人か見られた。手元にあった使い残しの目薬を母親に渡したところたいへん喜ばれた。

医療ボランテイアーとして眼科医の派遣、目薬、マスク、グーグル提供なども考えたらどうだろう。同地域の教育支援として教師の派遣、ノート、筆記用具、古本、古着の提供などボランテイア活動も望ましい。

この地域への協力については今回ミッションに参加された43人それぞれで協力できる分野が多いと思われる。各人が自分で出来ることを考え、草の根で協力し、できれば1年に1回、上記の物品提供などをご配慮願えれば幸甚です。

4)ポプラの木は製紙原料への活用を検討すべきと思われる。ブラジルで王子製紙をはじめとする日本の製紙業、商社がポプラの木を活用した製紙パルプ工場―セ二ブラを設立し、1970年代から日本への輸入を行なっているケースも参考にすべきだろう。一方趙社長のカシミヤ工場を最大限に活用し、日本からデザイン支援を行い、サブコントラクター、アウトソーシング工場の一つとして活用し、対日、対欧米むけ輸出基地として育成することが望まれる。

5. イギリスの理想的社会主義者のロバートオーエンは米国のインデイア

ナ州に「理想の村―ユートピア」を、わが国の武者小路実篤は宮崎に「新しき村」を建設し、「自分も生き、他人も生き、全部も生きる世界」をモットーに開拓に努力した。われわれは内蒙古の扶貧村にこのような哲学で「日中友好の村」を建設すべく努力したいものだ。そしてこの村を日本と中国の「21世紀の新しき時代の友好村」のモデルにしたいと思う。

  1.  奇しくもわれわれが内蒙古に滞在中の3月30日に日本政府は久しぶりに中国雲南省、四川省、 吉林省、内蒙古の7つの環境プロジェクトに総額600億円(年利0.75-1.5%、期間20-30年)の円借款の供与を決定した。幸先の良い朗報である。この機にわれわれミッションのプロジェクトが1件でも実現できることを心から期待したい。

日本は1990年代から長年、日中友好環境保全センター(中国名;中日友好環境保護中心)を中国の国家環境保護総局(SEPA)の下部機構として北京に設置している。JICAは技術協力プロジェクトへの支援としてこれまで105億円の対中無償供与を行なっている。われわれの内蒙古砂漠緑化・黄砂防止プロジェクトにもJICAの支援を受けることを検討すべきと思われる。

幸い、先の温家宝首相の訪日で日中互恵関係の強化がうたわれ、エネルギー、環境、農業、金融などの分野で協力が進展する見込みである。とくに目玉は環境面の協力強化である。われわれの内蒙古砂漠緑化プロジェクトに追い風が吹いている。今後とも団員各位のご協力を切望したい。

  1.  今回の訪中には柴田理事長はじめ団員各位、さらに難しい通訳に力を注いでいただいた毛Yさん、中国側では胡徳平副部長、林野庁・楊継平局長、東達蒙古王集団・趙社長、および同社関係者、内蒙古政府関係者など多くの方に御世話になった。いちいち名前は省略するが、ご協力いただいた日中関係各位に深甚の謝意を申し上げ、団長としての報告にかえさせていただきます。 謝 謝 !

環太平洋経済連携協定TPPについて

「環太平洋経済連携協定TPPについて」

22世紀学会研究会 2016年7月26日(火)大阪大学虎の門東京校

                            中川 十郎

                      名古屋市立大学22世紀研究所特任教授

                         国際アジア共同体学会理事長

                      日本ビジネスインテリジェンス協会会長

TPPと国会承認

昨年10月に合意され、本年2月に12カ国の関係者で調印されたTPPは関係国の国会承認を得る段階に至っている。

日本政府のうたい文句は「21世紀型の貿易協定で、参加12カ国は世界のGDPの40%を占める最大の貿易協定で、日本が参加することで、アベノミクス成功の基盤となる重要な貿易協定で一刻も早く国会承認を成立させるべきだ」とメデイアも大合唱している。

7月18日付け日本経済新聞社説は“まず日欧FTAとTPPに集中せよ”と力説し、「TPPは日・EU交渉にも影響している。EU側は一部の農産品でTPPを上回る関税削減や撤廃を求めているからだ。一方でTPPには米大統領候補が反対を表明している。しかし、12カ国の交渉をやり直すのは非現実的だ。TPP再交渉の余地がない点を示すためにも日本は率先してTPP協定案を速やかに承認すべきだ。それを通じて米議会にTPP協定案の早期審議を促しつつ、日・EU交渉も加速する。そんな二正面作戦が求められている」と日本の財界を代弁するような、財界寄りの意見を掲載している。

このような動きの中、経団連、日本商工会議所、経済同友会、日本貿易会の経済4団体のトップは首相官邸を訪れて、TPPの早期実現を求める要望書を提出。経団連の榊原定征会長は「反グローバリズムの流れを断ち切るため、日本が率先して承認することをお願いしたい」と臨時国会での早期承認を求めたという。これに対し、安倍首相は「早期発効の機運を高めたい」と応じたという。(朝日新聞)

経済同友会が今春、会員73社から得たアンケートではTPPの活用方法について、TPPの発効が見通せないこともあり、42%が「当面様子を見る」と回答したという。

政府は今年の通常国会でTPP協定の承認案と関連法案の成立を目指したが、衆議院では継続審議となった。臨時国会でも民進党や共産党などの野党はTPP反対をかかげて参議院選挙を戦ったので、混乱が予想される。

米国の議会対応

しかし7月18日に始まった共和党全国大会で採決する政策綱領草案には「環太平洋経済連携協定(TPP)に関しては再交渉で、より良い条件の貿易協定を結ぶ」と、盛り込んであり、日経や経団連など日本財界が希望しているTPPの米国議会での早期承認は難航すると判断するのが現状では正しいのではないだろうか。

一方、前述通り、TPPを推進してきた米国でも、大統領候補のヒラリークリントン氏や、サンダース氏、トランプ氏などがTPP反対を表明しており、米国での議会承認は容易ではないと思われる。ただしTPPの再交渉を主張していたヒラリー氏の動きにもかかわらず、公表された米民主党の11月の大統領選挙に向けた党の政策綱領草案にはTPPの議会採決阻止は明記されていないという。(日経 7月17日)

サンダース氏やトランプ氏などはTPPの再交渉を唱えており、来年1月任期のオバマ大統領の任期中にTPPの議会承認は容易ではないと見られている。

TPPの秘密交渉

このような状況下日本が率先して拙速にTPPの国会承認を得ることは問題だ。さきの国会でのTPP審議に際して政府は臆面もなく黒塗りの交渉文書を提出しその秘密ぶりが大きな問題となった。国民に交渉経過や合意の内容に関して納得のいく説明をすることが先決だ。このTPPは交渉の過程を含め、合意後4年間は交渉内容を公開せず、秘密にすることになっている。通商交渉において交渉締結後も長期にわたり交渉内容を公開しないとの条項は米国が主導して挿入したものだ。

米国のノーベル経済学賞受賞のステイグリッツ米コロンビア大学教授は、TPPは最悪の秘密通商交渉だとして、米議会に抗議の文書を提出している。世銀の副総裁、米大統領経済諮問委員会委員長を歴任し、国際経済・貿易専門家でもあるステイグリッツ教授はさらにTPP協定に盛り込まれているISDS(企業が国家を訴えられる裁判制度)についても企業が国家を訴えられる条項は国際法に反するとして強硬に反対している。

かかる多くの問題を有するTPPを最大の利害国である米国の議会承認前に、日本だけで早急に今秋にTPPを承認をしてほしいと経済界トップが安倍首相に要望すること自体がおかしい。TPPに関しては米国の多国籍企業100数社が企業益を狙い「TPPを推進する多国籍企業の会」を結成し、日本を中心にアジアへのビジネス拡大を目指し、米議会に強力なロビー活動を展開している。TPPはまた米国のアジアへの転換戦略PIVOT作戦に基ずく米国の国益増大戦略でもある。

TPPの問題点とEUとのFTA交渉

TPPは関税削減、撤廃のみでなく、貿易円滑化、紛争処理、食と健康の安全、医療保険、医薬品、知的財産、投資、サービス貿易、金融、政府調達、国有企業、労働、環境など実に30の分野について合意を要求されており、超国家法規が含まれている。日本国家の国益、国民の利益の面からも拙速に短時間で国会承認を得るにはあまりにも広範で大きな制約と問題がある。経団連などが早期の国会承認を要請することは問題だ。むしろ日本国の100年の大計を見据えて、国民にも広くTPP合意事項を公開し、国民と共に時間をかけて慎重に議論すべき協定だ。

筆者は長年のTPP研究と過去30数年の貿易商社勤務中20数年の海外駐在での国際貿易の経験から判断してTPPは拙速を戒め、慎重のうえにも慎重を期して対応しなければ日本にとって悔いを千載に残すことになると危惧している。

TPPは:

①解決に多大の時間と労力がかかった江戸時代の開国時の不平等条約、

②1945年の第二次世界大戦での日本の武力敗戦による長年の国民の苦労、

③40年後の1985年、米国の円切り上げ要求に屈したプラザ合意での金融敗戦により現在まで30年以上も継続しているデフレ不景気と経済の不振と低経済成長、

④2016年のTPP承認により4度目の貿易敗戦を喫することになるだろう。日本にとり社会的にも1945年の敗戦以来、最大規模の悪影響を及ぼす悪法がTPPだと認識している。

したがってTPPの国会承認に際しては、時間をかけて慎重のうえにも慎重を期して国民的議論と審議をすべきだと確信している。

EUと米国とのTTIP(環大西洋貿易投資連携協定)も本年中の合意を目指して交渉が継続していたが、6月の英国のEU離脱決定の影響もあり、合意にはさらに時間がかかるだろう。

また日本とEUとのFTA(自由貿易協定)も交渉に時間がかかることも踏まえて、TPP国会承認については慎重に検討することが肝要であることを強調したい。

TPPの内容と問題点

財務省大臣官房参事官・岸本 浩氏の2016年5月17日の関西学院大学、東京商工会議所、日本関税協会主催の「TPP協定の意義とこれからの貿易・ビジネスの展開」~貿易・ビジネスはどう変わるか、TPPをどう生かすか~の資料によれば、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)について「アジア太平洋地域において、物品及びサービスの貿易並びに投資の自由化及び円滑化を進めるとともに、知的財産、電子商取引、国有企業、環境等幅広い分野で21世紀型の新たなルールを構築するための法的枠組みについて定める」として、

*21世紀のアジア太平洋にフェアーでダイナミックな「一つの経済圏」を構築する試み。

世界のGDPの約4割(これは約80%が日米二国の合計だ。したがってTPPは実質的に日米二国間のFTAだ。~筆者注)、世界人口の一割強を占める巨大な経済圏。

*TPP協定締結により我が国のFTAカバー率は22.3%から37.2%に拡大。

*物品関税だけでなく、サービス・投資の自由化を進め、さらには知的財産、電子商取引、国有企業など幅広い分野の新しいルールを構築。

*我が国にとっての経済効果は、実質GDPを2.59%(約14兆円)、押上げ、雇用を1.25%(約80万人)増加させる見込み。(この数字はTPP発効後、何年後か明記がない~筆者注)

この資料はTPPの農業や食の安全、ISDSなどの問題点には触れないでバラ色の未来を喧伝している。これは原発推進に際して自民党と原子力村が吹聴した「原発の安全神話」に共通する宣伝と一脈相通じるものがある。

われわれはこのようなTPPのバラ色の幻影に惑わされることなく、TPPの問題点とその日本への影響を十二分に考究することが必要である。

そもそもTPPは2006年に小国のシンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、チリの4カ国がアジア太平洋地域4カ国で結成した自由貿易協定のP4協定を米国が横取りしてTPPに変容させ、21世紀に発展するアジア太平洋との貿易を拡大する目的でPIVOT戦略も絡めてアジア太平洋諸国の12カ国と交渉を開始したものである。従いTPPは究極的に米国の国益と米多国籍企業の企業益追求がその背景にあることを充分留意することが肝心だ。

TPPとTTIP~欧米の反対運動の現状

先日、都内のホテルで開催されたジャパン・ハンドラーたちが結集するCSIS(米国戦略国際問題研究所)の日米セミナーに参加した。米国側の出席者がTPP締結の必要性を強調し、

TPP締結は米国、日本のアジア太平洋での中国への軍事的対決の意味もあると発表した。

米国はTPPを経済的にも軍事的安全保障面でも中国に対峙する為にも日米が主導して早期締結の必要性を訴えていた。米国はTPPを経済と安全保障の観点からも重視していることを強調した。しかし自由貿易協定を軍事とからめて交渉することには違和感を覚えた。日本としては十分留意してかかることが肝要だろう。一方、6月19日東京で開催の国際シンポジウム「TPP,TTIPなどが脅かす民主主義・環境・暮らし」に参加した。

講師の一人、上田雄彦・横浜市立大学教授によれば:

*0.14%の金持ちが、世界の金融資産の81.3%を所持。

*上位20位までの金融市場のプロが毎年120億ドル(一人当たり660億円の年収を取得。

*もっとも富裕な層62人が、世界の36億人分の富を所有。

*世界資産の25%が300の多国籍企業で占められている。

*これら企業の売り上げは世界貿易の3分の2、世界GDPの3分の1を占めている。

*世界貿易のおよそ60%は多国籍企業の内部で生み出されている。

*多国籍企業は世界の隅々から余すことなく富を得ている。

との研究成果の発表があり、多国籍企業の独占に驚いた。このような多国籍企業は利益の課税逃れのために先日発表された「パナマ文書」で指摘のタックスハブンに利益を移転させており、二重の意味で、国家経済に悪影響をおよぼしていることを留意する必要がある。

米国から参加のパブリック・シチズン グローバル貿易ワオッチのメリンダ・セントルイス氏は米国では党派を超えてTPPに反対しており、大統領候補のクリントン、トランプ、サンダース氏もTPP再交渉などを掲げていると説明があった。

米国での党派を超えた反対の理由は ①TPPの秘密性と企業の影響力 ②ISDSなどで新たに拡大される企業の権利 ③TPPは食の安全、医薬品へのアクセス問題、環境・気候、金融規制、人権などを脅かす ④TPPと似た過去の貿易協定は破滅的な結果を齎している ⑤公式調査によるとTPPはなんの経済的利益をもたらさないと強調した。

TPPは歴史上も最も秘密性の高い貿易交渉で7年間の秘密裏の交渉、米国の500以上の多国籍企業のアドバイザーが条文案への影響力を持っている。参加国はTPPが発効してからも4年間は交渉中の条文は公開しないという覚書を結び、国民の目から真実を隠ぺいしている。しかもTPPには失効の日時が記載なく、12カ国の合意なしでは言葉一つ変えられない条約だ。投資家対国家紛争解決(ISDS)は世界銀行傘下の機関が担当し、無制限の保証を求めることができる。TPPが発効すれば6450社の米国企業子会社が日本政府の政策に対してもISDS攻撃を仕掛けられる。さらに医薬品、GMO(遺伝子組み換え作物)、食の安全、金融規制緩和、環境への悪影響などもある。下院議員、上院議員の3分の一が11月改選を迎える。新大統領の移行期間も含めて、TPPの議会承認は非常に困難視されている。さらに米国では1500の団体がTPPへの反対を表明する書簡を2016年1月に議会に送付している。一方、450の環境団体も2016年6月にTPP反対の書簡を送付。さらに米国の有名な経済学者のステイグリッツ教授、クルーグマン教授、ロバートライシュ、サマーズ教授などがTPPは経済的利益は少なく、むしろ多くのリスクがあるとしてTPPに反対している。

先に鳴り物入りで喧伝されたNAFTA(北米自由貿易協定)、韓国・米国のFTAもはかばかしい効果がなく、米国には恩恵がないとの研究報告もある。(メリンダ・セントルイス氏)

日本のメデイアでは米国でのこのような反対意見は報道されず、アベノミクスの目玉としてTPP協定の早期承認が必要との言説が喧伝されているのは問題だ。

ベルギーから参加のCorporate Europe Observatoryのローラ・ブルージュ氏は米国・EUの環大西洋貿易・投資パートナ‐シップ協定(TTIP)について:

①透明性の欠如、②ISDSは民主主義への脅威、③環境保護への脅威、④公共サービスの民営化の問題点、⑤TTIP交渉の秘密主義などからTTIPを汚い協定だと指摘した。

特にTTIPと食の安全に関して肉のホルモン剤、遺伝子組み換え作物、殺虫剤の増加、塩素処理された鶏などが人間の健康と安全に悪影響を与えるとして問題視している。

EU本部のあるベルギーでは環境団体、農民、労働組合、健康保険団体などが多国籍企業の利益を追求するものとしてTTIPに反対運動を展開している。

このようにTPPのみでなくTTIPも米国、ヨーロッパで国民の反対運動が起こっておることに留意する必要がある。

結論~日本のTPP反対運動~正しい、信頼できる情報の収集と分析、活用を

日本では「TPP交渉から即時撤退を要求する学者1000人の会」(会長・醍醐東大名誉教授)などがTPPに反対していたが、最近活動している様子も見えず、同会の一員でもある筆者にとっては誠に残念である。

最近出版された植草一秀・伊藤 真氏は著著『泥沼ニッポンの再生』(ビジネス社)で「TPPへの加入は主権の喪失を意味する」と警告を発し、

*独立国家としての主権が失われることになるTPP締結

*日本の司法権を毀損するISDS条項

*日本の司法が危機的状況に瀕していることを知らない司法関係者

*ISDSの受け入れは自国が未成熟な国であることを宣言するようなもの

*農業分野の関税で聖域として守られた品目はゼロ

*国家の存続に関わる食料安全保障を脅かすTPP

*日本市場への参入を積極化させるアメリカの医薬品、医療機器メーカー

*日本がひざまづかされる相手はアメリカでなくグローバル多国籍企業

*TPP脱退は不可能なのか

などTPPの問題点を端的に指摘している。

近刊の山田 優・石井勇人著『亡国の密約』(新潮社)~TPPはなぜ歪められたのか~

は労作である。ここではTPPで日本が譲歩を繰り返した背景に、コメを「聖域」として米国との間に過去に結ばれた密約があったことを暴いている。この書ではGATT時代の通商交渉時代から交渉を追跡しているジャーナリストが日米密約の事実を暴いている。

日米間にコメ輸入をめぐる”密約“が存在する。その実態が明らかになれば貿易の自由を脅かす明白な違反行為として日本は国際的な非難にさらされかねない。この密約にTPPを含めた日米交渉の本質が隠されていると実態を暴いている。

今回のTPP合意の背景には農水省を差し置いて「日本版NSCの米国寄りの谷内事務局長と外務省が主導し、日本ハンドラー、日本ロビーのCSIS(米戦略国際問題研究所)の策動でTPPが政治化された」経緯が詳しく記述されている。

「TPP-日米再激突という虚構」「米国の提案を丸呑みした落日の日本」「蚊帳の外に置かれた農水省と農林族」「一錠8万円のハーボニーなどで崩壊する国民皆保険」「AIIBの衝撃が引き金になった」「骨抜きにされたTPP」などTPP交渉の内幕がウルガイラウンド・コメ交渉などを通じて歴史的に詳しく説明されている。一読の価値がある著書だ。

一方、『泥沼日本の再生』の共著者・弁護士の伊藤 真氏は「TPPに関して国民も国会も情報を知らされず、情報もなしにTPPという条約が承認されようとしている。これは主権者国民の意思とは言えない。それは明らかに憲法61条、73条2項違反になる。日本政府がTPPを承認すれば国民の主権が失われるのみならず、独立国家としての主権も失われてしまうことになる」「ISDS条項で日本の裁判所は何も手を出せない」「TPPを推進しているのはグローバルな強欲巨大資本だ。結局はグローバルに支配を進めようとしている巨大資本が、日本市場を完全な支配下に置くためにTPPが必要なのだ」「農業、食の安全・安心、医療、金融の問題などいったんTPPに入ってしまうと足抜けできなくなる」とTPPについては安倍政権のバラ色の喧伝に惑わされずに日本国民として真剣にTPPの得失を慎重に検討することがわれわれ国民の義務、責務である。

そのためには情報が操作されていないか、情報の出どころはどこかなど情報の精査を行い、情報を量のみでなく質的な面からも十分検討し、国内外の正しい情報の把握に努め、正確な情報の収集、的確な分析により、正しい判断をすることが何よりも大切であることを強調したい。