BIS論壇No.224

「一帯一路」北京首脳会議について 5月12日 中川十郎

BIS名誉顧問の谷口 誠・元国連大使より5月11日、日本記者クラブで開催の「二階幹事長の訪中成功を期して」と題する記者会見に招待された。記者を含む約30名の関係者が参加した。日中関係研究所からは谷口大使とBISでも講演願ったことのある凌 星光・福井県立大学名誉教授が参加された。二階幹事長の「一帯一路」国際フォーラム参加を日中関係改善の転機にしてほしいと、以下10項目の提言をされた。
1.日本はアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加し、日中経済協力関係を強化する
2.陸と海のシルクロード構想を日本にまで延ばすよう中国に働きかける
3.経済のグローバル化と自由貿易を日中が協力して東アジア・モデルを提示し欧米に働きかける
4.日中韓FTAと東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の早期実現を目指す
5.空の平和的利用の枠組みを作り日中両国の航空識別圏を廃止の方向に持って行く
6.すべての領土問題について、それぞれの地図と教科書に「係争地域」と表示する
7.アセアン地域フォーラムを発展させアジア安全保障体制の枠組みを構築していく
8.沖縄については軍事拠点から経済拠点に移行する道筋を指し示す
9.六か国協議を再開し、朝鮮半島の非核化を対話によって実現していく
10.歴史認識問題や領土問題の政治問題化を防ぐ
5月14~15日に本年の最大の政治外交の催しとして習政権が注力する「一帯一路」
首脳会合が北京で開催される。国連事務総長をはじめ、70の国際機関、130か国から29の首脳も含め1500人が参加する。シリアをはじめ北朝鮮からは金英才・対外経済相が参加。さらに「100日計画」で中国が米国産牛肉、LNGなど輸入に同意。米国は中国産の調理済み鶏肉の輸入を認める。米国企業の電子決済サービスの許可。米国は中国のシルクロード経済構想「一帯一路」の重要性を認識し、首脳会議に米代表団を派遣することを決定した。これに引換え、安倍政権はAIIBをはじめ中国に対抗意識を鮮明にし、一帯一路首脳会議に閣僚は派遣せず、二階自民党幹事長、松本経済産業副大臣、首相補佐官を派遣する。中国はシルクロード経済圏構想(一帯一路)の参加国に今後5年間で最大1500億ドル(17兆円)を投資するとのことである。未来予測で有名な米国のシンクタンク・ユーラシアグループのイバン・ブレマー社長は「今日、世界で未来戦略をもっている国は中国一カ国のみだ」と喝破している。
アジアから中央アジア、中東、アフリカをへてヨーロッパを海と陸から結節する壮大な21世紀のユーラシア・シルクロード構想は、すでに70か国が参加するアジアインフラ開発銀行(AIIB)の融資と相まって21世紀のグローバル物流、国際貿易をけん引することだろう。AIIBにも参加せず、一帯一路構想にも批判的で、首脳会議にも経済関係閣僚を送らぬ安倍政権の対応は時代の流れに逆行しており、将来悔いを千載に残すことになるだろう。

BIS論壇No.223

「疲弊を続ける日本の地方」2017年5月9日 中川十郎
4月中旬、1週間、私用で郷里の鹿児島に帰郷した。滞在中好きな温泉に朝晩14回浸った。出張中は携帯以外、PCは持参せず、久し振りに静養ができた1週間だった。
パーキンソン病の弟につきそい、病院に同行した。地方では1,2を争う大きな病院だ。
驚いたのは病院に来ているほとんどが高齢で、手押し車や、介護椅子で、杖を突いている老人だったことだ。待合室は老人でいっぱいで足の踏み場もない感じで地方の老齢化が急速に進んでいる現実に直面し、一瞬息をのんだ。
それ以上に驚いたのは病院への行き帰りに見たシャッターが下り、閑散とし、さびれた商店街であった。世界最高速で少子高齢化が進んでいる日本の地方への対応が大幅に遅れている実態に唖然とした。
安倍政権の2017年度の防衛費は戦後最大。アジア近隣の諸国には哨戒艇の贈与などが続いている。鳴り物入りで喧伝しているアベノミックスは勇ましい掛け声だけで、実体経済にはほとんど効果は及ばず、GDPの主力である消費は落ち込んだままだ。安倍政権は世界最高速で進む高齢化に真剣に対応しているとも思えない。このままでは日本の地方の衰退はさらに進むだろう。
WTO貿易紛争処理委員を1995年以来委嘱されているところより、2005年のWTO創設10周年記念式典にWTOジュネーブ本部を訪問した。さらにイタリア北部の湖畔で開催の欧州のWTO記念式に参加の為、ジュネーブから国際列車でイタリアに移動した。途中のアルプス山麓のスイス、イタリアの農村がきれいに整備されきれいな緑の田畑が広がっていることに感銘を受けた。農村の発展なくして国の繁栄はないと痛感した。

安倍政権は日本の農村や、農産物、食品、健康に大きな影響を与えるTPPからトランプ政権が撤退した後も、成り行きとしか思えない態度で、その影響を十分検証もせず、米国の抜けたTPPの成立をめざし、主導権を取って、TPP11カ国で協定を発効させようと交渉中だ。多国籍企業や大企業に有利なTPPを実現しようと国民不在で躍起になっている。むしろこの機会にアジアを中心とするRCEP(ASEAN10カ国+日中韓印豪、NZ16カ国の東アジア包括的経済連携)や、中國が熱心なアジアインフラ開発銀行AIIB、アジアから欧州への大物流計画「一帯一路」構築に中国、インド、ASEAN諸国などと協力する方策を検討することこそ先決ではないか。
鹿児島空港から郷里肝付町へのバスの道すがら、倒れた杉の木や、竹林が続いており、少子高齢化の田舎では伐採する人手もないことを実感した。地方の衰退は日本の将来を暗示しているように思えた。

BIS論壇No.211

「TPPとRCEPの最近の動向」2017年4月1日 中川十郎
3月24日、筆者も評議員を仰せつかっている「東アジア共同体評議会」第75回政策本会議が国際フォーラムで開催され参加した。講師は中川淳司・東大教授で「東アジアにおける経済統合の現状と見通し」と題し、これまでの長年のTPP研究をもとに豊富な資料・統計を活用し、理論も交えた学者的な発表であった。しかし、TPP賛成論を長年唱えられてきた同教授の見解は 1)TPPは21世紀の地域貿易協定のモデル。2)TPPはFTAAPにむけて交渉が終わった唯一のFTAで韓国、タイ、インドネシア、フィリッピン、コロン
ビアなども加入希望を表明している。3)TPPは中国牽制カードとして意義がある。
4)広域FTA.交渉を促すドミノ効果がある。5)TPP離脱は米国にマイナスを齎す。
6)日本の取るべき対応はTPPに調印した11カ国で米国に圧力をかけ、日米FTA交渉などを通じ、米国のTPPへの復帰を「鳴くまで待とう」の方針で努力すべきだとの結論であった。また日中韓FTAは2013年以来4年にわたり交渉が継続しているが基本的な関税下げのモダリテイについての合意にも至っておらず難航している。
日EUFTAは論点は絞り込まれており、本年中の妥結を目指すがどうか。2013年以来交渉中のRCEPは日本の東アジア供給網の多くをカバーし重要で既存のASEAN+1FTAより改善してはいるが、より広く、深い約束がなされることが原則だ。だがインドの扱いが困難でインドを排除し交渉を促進すべしとの見解を表明された。
同教授は2017年1月17日付け日経経済教室の『TPP漂流が問う通商政策』で「米の批准ねばり強く説得を」と唱え、「TPP不参加で米国は大きな不利益を被る」「RCEPやEUとのEPAの妥結を急げ」「米国抜きの11カ国での発効は容易でない」「日米二国間交渉成果は期待薄」と述べ、あくまでも米国がTPPに回帰するように日本が説得すべきだと強調された。理由の一つは米国がTPP域内のGDP60.4%を占め、日本の17.7%をあわせると78%を日米二国で占める。日本がTPPに参画すると日本のGDPは2・6%押し上げられると楽観的評価をしておられるのは問題ではないか。
米国の2032年時点の推計ではTPPにより米国のGDPは0.15%、雇用はわずかに0.07%の増加である。(US International Trade Commission 2016資料)
これに対し筆者は米国がTPPに復帰することは至難。RCEPからインドを排除せとの意見には反対。インドはポストチャイナとして年率7%以上の成長を持続している。インド出身のカマト総裁が主導するBRICS銀行は本年15のプロジェクトに25~30億ドルのインフラ融資を予定している。AIIBは参加国が57カ国から本年70か国に増加、さらに年内に90か国が加入する見込みという。アジアからヨーロッパへの中国の野心的な物流戦略「一帯一路」にも日本はAIIBともども参加すべきと訴えたが、意見の一致は見られなかった。
TPPを脱退した米国は4月中旬、ペンス副大統領をロス商務長官と日本に派遣。麻生副首相、財務大臣などと日米二国間交渉を始める。米USTRは3月31日、貿易障壁に関する年次報告書を公表。日本の農業分野と自動車に障壁があると指摘。トランプ大統領は日本や中国などの貿易赤字国との赤字削減へ強硬姿勢だ。日本は国益第一で交渉をすべきだ。

BIS論壇No.207

「17回東アジア包括的経済連携(RCEP)神戸会議」中川十郎

 

 

トランプ政権のTPPからの離脱後、初のRCEP交渉官会議が2月27日~3月3日神戸で開催さ

れた。ASEAN10カ国とFTAを結んでいる日中韓、豪州、ニュージーランド、インドの16カ

国の交渉官700名が参加した大掛かりな国際貿易会議だった。 2012年11月にASEANが提

唱。2013年5月に第1回交渉会議が始まって以来、4年弱で「経済技術協力」、「中小企業

支援」などについては合意がなされたが、今後はハードルの高い「関税」や[投資ルール

]など難しい交渉が控えている。RCEPが実現すると人口約34億人(世界全体の約半分

)、GDP約20兆ドル(世界の約3割)、貿易総額10兆ドル(世界全体の約3割)の広域経

済圏が出現する。それはまた将来のアジア・太平洋21カ国、地域の「アジア太平洋自由貿

易圏(FTAAP)」形成の基盤ともなるとして注目されている。日本とRCEP交渉国との貿

易構造は2013年で日本の輸出総額約31.7兆円。輸出38.6兆円に達している。

今回の神戸会議では注目すべき合意には至らなかった模様だが、RCEP交渉会合後の3月

14~15日チリ―での閣僚会合に中国が招待されている。とくに日本、豪州、ニュージーラン

ドはASEAN諸国に対し、TPPスタイルのルールに合意するよう圧力をかけているという。

さらにTPPのテキストをRCEPに持ち込もうとしている。TPP撤退以降、多くの国がこれ

までかけてきた政治的コストを再活用しようと必死であると2月24日、東京でNGOのステ

ークホールダ―会合に参加したニュージーランドのジェーン・ケルシー・オークランド大

学教授は警告した。同教授はさらにRCEPの交渉はTPP同様秘密交渉であり、その交渉の

推移には十分注視すべきこと。特にハードルの高い」「関税」、「投資ルール

」、「ISDS」(企業の国家に対する投資紛争条項)などについてはその交渉推移を監視す

ることが肝心だと訴えた。RCEPにはASEAN後発発展途上国のミャンマー、ラオス、カン

ボジアなども参加しているところより、TPP型の超高度な自由化目標を掲げることは困難

であろう。TPP交渉参加国の日本やオセアニア諸国はRCEPの事情を踏まえ、アジアに適

した条件交渉を行うべきだろう。RCEP交渉においては日本、シンガポールなどの「質の

高さを重視するグループ」、フィリッピンや中国、インドなど「早期合意最優先グループ

」、さらにラオス、カンボデイアの「後発途上国グループ」の3グループがあり、これら3

グループの調整が大切だ。しかしアジアの発展段階の違う特殊な事情を勘案し、穏健な条

件での交渉に努力することが肝心である。3月5日付け日経新聞社説は「TPPの国内手続き

を終えた日本こそRCEPを主導すべきで、TPPが実現しようとしていた質の高い貿易・投

資ルールに少しでも近づけるべきだ。日本は貿易・投資の自由化の意義を粘り強く中印に

説いてほしい。

日本がRCEPを前進させれば米国が圧力を感じ、長い目で見て米国がTPPへの復帰を検討

するきっかけにできるかもしれない」と全く自国本位の説を主張している。しかし日本は

まず、発展段階も違い、宗教、言語も違うアジアでのFTA交渉においては自国中心の考え

方ではなく、アジア諸国の立場に立ち、アジアの発展を見据えた未来志向のRCEP戦略を

構築すべきであろう。

BIS論壇No.206

『中央アジア・ユーラシア情勢』

1月28日 中川十郎

「一帯一路」、「AIIB」などで近年脚光を浴びている中央アジア・ユーラシアの研究発表会が貿易研究センター主催で「世界の地政学的変動と中央アジア」と題し、去る1月23日霞が関ビルで開催された。非常に有益だった。

基調講演者は袴田茂樹・新潟県立大学教授・青山学院大学名誉教授、パネルでは田中哲二氏・中央アジア・コーカサス研究所所長の司会で 清水 学・ユーラシアコンサルタント社長、茅原郁生・拓殖大学名誉教授、元陸将補、出川展恒・NHK解説委員が発表された。

パネルでは中央アジア・ユーラシアの最新動向の発表が中心だった。政治的な動き、特に中国、ロシア、北朝鮮の軍事的脅威論が主に論じられた。トランプ大統領の出現で、米中関係は緊張。米露関係は北朝鮮を含めて緊張緩和するのではとの見方も表明された。

質問時間に田中哲二氏より筆者に質問を要請された。会議の内容は政治、軍事的分野からの解説と中露脅威論が論じられた。したがい政治の下部機構たる経済面を中心に中央アジア、ユーラシアは2015年にインド、パキスタンが上海協力機構に加盟、将来人口30億人の巨大市場が中央アジア・ユーラシアに誕生する可能性があるがどう見るか。TPPからの米国の離脱で日本としてはアジア諸国中心の東アジア包括的経済連携(RCEP)と日中韓3国の早急なるFTA締結、ASEAN+3協力に加え、近年著しい発展を遂げつつある上海協力機構(SCO)と日本、ASEANとの協力策を検討すべきではないかと清水 学氏に質問した。

彼は上海協力機構設立の動機は加盟各国の国境での紛争、テロ防止が主眼だとの意見で、経済分野でASEANやアジア各国、日本の関与の余地は少ないのではないかとのことであった。これに対し筆者は意見が違う。SCO結成時は上海ファイブメンバーは確かに国境での紛争、テロ防止が主眼であったが、20年後の今日は、ユーラシアにおける巨大経済圏構築を目指している、BRICS有力メンバーのインドがSCOに加盟したことはSCOの発展に寄与し、近い将来、ユーラシアに人口30億人の巨大市場が出現する。日本としても、その動向には十分注意すべきことを力説した。

2015年末には資本金1000億ドル、参加国57か国のアジアインフラ投資銀行(AIIB)が北京に発足。さらにBRICS開発銀行も上海に資本金500億ドルで発足。中国単独でユーラシアでの諸プロジェクトに融資する「シルクロード基金」が400億ドルの資本金で活動を開始。さらにSCO銀行も設立される。これらの潤沢な資金で、中國が主導する「一帯一路」

計画への投資、アジア、中央アジア、ユーラシア、中近東、アフリカ、欧州を結ぶ巨大グローバル物流計画が動き出す。すでに中国からドイツ、フランス、英国へは貨物鉄道直行便が開通。中國、ヨーロッパの巨大物流が動きだしている。

一帯一路周辺に広がる市場規模は60か国。世界人口の60%、世界GDPの60%。この地域のエネルギー資源は世界の75%に達する。日本としても米国に気兼ねすることなく、日本の国家利益の観点からもAIIBに早急に加入し、21世紀に世界で最も発展するとみられるユーラシアの「一帯一路」戦略に参画するべきだと強く訴えた。